椿side
奈々や司、組の皆を見送って一気に静かになる。
病室から数人の看護師が出てきて、運び終えたから入っていいと許可を貰う。
深呼吸をして扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。
そこには無機質な機械の音と、呼吸器に繋がれた息子の姿があった。
苦しげな表情ではなく、穏やかな顔をして眠っている。
「尊…」
ぽつり、と楽が呟く。
楽も心配で気が気じゃなかったのね。
横たわる尊に近付き、頭を軽く叩く。
「ちょ、椿さん!」
「あら、これくらいしてもいいじゃない?寝てる時くらいしか…この子に触れれないもの」
尊の中学入学以来、話すことはあっても触れたことは一切ない。
中学生になった途端、大人ぶりたいのか何なのか知らないけれど、尊との会話自体も減った気がする。
まぁ、司とは仲良さげだったけどね。
「馬鹿ね、ほんとに。何のために今まで訓練してきたんだか」
「椿さん…」
「でも…よくやったわ。奈々を守るなんて。アンタは正真正銘、久月の男ね」
小さい頃はチビでクラスの子にもいじめられて。
毎日のように泣いてたあのヒヨッコが。
今では惚れた女を庇って危険な状態になって。
「子供の成長ってこんなに早かったかしらね〜」
ふふ、と笑って尊の頭を撫でる。
早く目を覚まして奈々を安心させてちょうだい。
アンタはもう、ただの男じゃない…父親にもなるんだから。
奈々とお腹の子の分も頑張るの。
「椿さん、お話があります」
「奈々を狙ってきた奴らのこと、よね?」
「…はい。相手は尊があの時間帯、家を空けることを完全に把握していました。じゃなきゃそこらの組の奴らじゃ、尊が帰ってくるリスクを考えて手が出せないはずです」
それもそうね。
いつ帰ってくるのか、どれ位の時間家を空けるのか。
それが不明だと手を出そうにも出せない。

