「楽!奈々っ!」
椿さんが私達の名を呼ぶ。
その声には焦りと不安がみえる。
「姐さん、すみません…。俺がついていながらこんな事態に…」
「そんな事はいいの。奈々」
威厳ある声で私を呼ぶ。
ビクリと肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げる。
そこには真剣な表情の椿さん。
私にゆっくりと近付き、強く抱き締めた。
「つ、ばき…さん…?」
「怖かったわよね、目の前であんな事が起きて。苦しいわよね、尊がこんな事になって」
椿さんが優しくいうもんだから、無意識に私の頬に涙が伝う。
息が詰まり、全ての感情がむき出しになる。
「こ、わ…かった…っ!!尊、居なくならないよね…?死んだり、しないよね…!?」
「大丈夫、大丈夫なの。今は信じましょう。尊を」
「ふ、う…うぅ…あぁぁあぁ…っ!!!私のっ…!!私のせいなの…!!尊、ごめ、なさっ…!!ごめん、なさいっっ…!!!」
「奈々のせいじゃない…誰の、せいでもないの…」
母の腕に抱かれわんわんとなく子供のように泣き続けた。
違う、違うの椿さん。
私の、せいなの。
私が紅瀬に戻っていれば、こんな事にはならなかった。
ごめんなさい…ごめんなさい……。
「尊は死なない。だから、信じてあげて…あの子を。きっと尊は、必死に生きようとしてる」
何度も何度も首を縦に振り、頷き続ける。
尊が消えないように、この子の分も祈るんだ。信じるんだ。
自分のお腹を守るように抱き締め、お腹の中の子の分も祈る。
神様、お願い今回だけは…。
尊を私とこの子から奪わないで下さい。
この子には、彼が必要なんです。
ねぇ、尊…。
この子の名前、一緒に考えるって約束したよね?
ちゃんと約束守ってよ…。
私、信じてるから。
だから死なないで…。

