あぁ、そうだ。と何かを思い出したように立ち止まり、私を冷たい瞳で見つめ、続けた。
「別に断ってもいいが…今度は手加減なんてしねぇ。紅瀬組の全勢力を使って…久月を潰す。俺らにとっちゃ、赤子の手をひねるくらい容易いことだ」
そういい残し、夜の闇へと消えていった。
「奈々ちゃん!何してんの!!」
後ろから聞こえた楽の声に驚き振り返る。
表情からして、綾牙さんの姿は見てないようだ。
「路地なんかにいたら他の奴らに狙われる。車に乗って。尊の止血が終わったから、病院までトバしていくよ」
早く、と車に私を後部座席に押し込める。
その横には血の気が引いた尊の姿。
息は辛うじてあるが、意識がない。
『君が招いた事だ』
綾牙さんにいわれたことが頭を回る。
尊の手を握り、謝り続ける。
「ごめん、ごめんね…!!私の、せいで…っ…」
早く…病院に運ばなきゃ。
お願い、尊を…私から尊を奪わないで…。
ずっと祈り続け、病院へと向かう。
到着すると、楽が前もって連絡していたのか緊急搬送用の通用口には何人かの看護婦と救急隊員が立っていた。
すぐに手術室へ運ばれ、手術中のランプが光る。
手術室のすぐ側にあるソファに力なく座ると、それを心配したのか楽が側に座る。
「大丈夫、大丈夫だよ。アイツはこんな事じゃ死なない。そんな…ヤワじゃない」
自分自身にも言い聞かせるかのように大丈夫と繰り返す楽。
きっと、楽だって不安で仕方ないんだと思う。
平然を装ってるだけで、気が気じゃないはず。
私は何も答えず俯くだけ。
しばらくすると、雪乃や司さんと椿さん、蒼聖さんが息を切らして駆けつけてきた。

