ギター王子とピアノ姫




「千葉が有名になれば、この学校の
知名度も上がるし何より先生の
評価上がるからなー!」


「……は?」


「俺のクラスには芸能人の千葉が
居るってことで、校長に言って
ボーナス上げてもらおっかなー!」


「ズルいですよー!私もボーナス
増やして欲しい~!」


「いや〜悪いね!なんたって千葉は
げーーのーーじんっ!!ですからぁ!」


「じゃあ、今度先生の奢りで
焼き肉行きましょうよ!」


「いいねー!よっしゃ!お前ら
奢りだぁーーっ!!」


「「よっしゃぁぁぁっ!!」」



ゲラゲラ汚い笑い声が耳障りだ。



「……」



……だから大人は嫌いなんだ。



結局、自分の都合のいいようにしか
考えないんだよ。


私……知ってるんだからね。



学校が私の『いじめ』を
知ってるくせに
何も知らないふりしてること。



(『いじめが発覚したら学校の評価も
俺の給料も下がっちゃうも~ん』って
担任が言ってたのはホントに
ショックだった)



人が苦しんでまで自分が得したい?


それで、いざ自分がピンチになったら
『助けて』って言ってくるんでしょ?



(ホント都合のいい人たち)



私は未だに騒いでいる担任たちを
背に職員室を後にした。




◇◇◇◇◇



教室。



「……」



カララッ……



(気づくな気づくな気づくな気づくな)


「「キターーっ!!」」


(何で気づくかな!?存在感の薄い私に!)



やっぱり気づかれました。


普段なら存在感の薄い私には全く
気づかないクラスメイトたちでも
今回はさすがに気づいた。


っていうか、この感じだと
私が来るの待ってたんだろうな。



そして、たぶん私を囲んで
あることをするんだろう。



「ピアノ姫~!ホントに千葉さんが
Melloなんだぁっ♡」


「ねぇねぇ!何で黙ってたの!?
っていうか、いつから芸能人なの!?」


「今まで、どんな有名人と会った!?」


「笑大君ってカメラ回ってない時
どんな感じ!?」


「てか何で笑大君とユニット!?
確か笑大君からの希望だよね!?」


(予想通りの質問攻めだよ……)



未知の世界『芸能界』について
知りたがる人は、そりゃ多いよね。


特に年頃の女の子はさ。



「黙っててごめんなさい。
事務所の方針で学校関係者全員に
黙ってたの」


「え~!先生たちにも黙ってたの!?」


「仕方ないよ~。顔見せ無し、
本名非公開、年齢非公開で売るためには
そうするしかないでしょー」


「それもそっかぁ~」


「……」



……早く私から離れて欲しい。



普段は私のことドスの効いた声で
いじめるくせに。


こういう時は甘ったるい声で
擦り寄ってくる。



担任たちと一緒だよ。


……レベルが。



(それに……クラスメイトたちが
私に近づく本当の理由は
Melloのことじゃない)


「ねぇ千葉さん!お願い!
笑大君のサインもらってきて!」


「ズルい!私も!」


「じゃあ私、『triangle』のサイン!」


「それもっとズルいじゃん!
じゃあ私はーー……」


「……あのさ」



ピタッと女子たちの声が止まる。


みんな目をパチパチさせながら
私の次の言葉を待ってるようだ。



「私……遊びでやってるんじゃないんだ。
それは笑大君も同じだから。
だから……サインをもらったりは
出来ない……ごめん」


「「…………」」