「へぇ~!やっぱり喉のケアには
気をつけてるんだね!
さすがプロのシンガーソングライター!」


「ごほっ」



『プロのシンガーソングライター!』の部分で
思わずむせてしまった。


慌てて首に巻いていたタオルで口元を
軽く拭くと、『私はプロなのかな……』と
独り言のような感覚で、ぼそっと呟いた。




「どうして、そう思うの?」


「え?」



あ……千葉さん、今の私の独り言を
独り言とは捉えなかったのね。



「確かに私は昨春、メジャーデビューしました。
でもCDシングルランキングでは
30~40位台。社長からは『知名度上げなきゃなぁ』
って何度も言われてます」


「そうなんだ」


「確かに社長の仰る通りです。
知名度を上げなきゃ多くの人の元に
私の音楽が届く事は無い。
それは分かってます。……分かってるんです」


「Melloちゃん……?」



ははっ……なんか落ち込んできちゃった。


精神的に強くならなきゃなぁ。



「でも……知名度を上げることよりも
私は大切にしたいことがあります」


「なぁに?」



『何が言いたいんだろう?』と言いたげな
目を向ける千葉さんに
私は向き合うと……



サッ



「え……?」



寸止めのパンチを1発御見舞した。


その私の拳の先は……



「私は……この『心』に響く歌を歌いたい」


「Melloちゃん……」


「仕事だけで歌う人も芸能界には多いと思います。
でも私は……歌で人の心を動かして、気持ちを
共有して、人との繋がりを大きくしたい」



偉そうなこと言ってごめんなさい、と
肩をすくめて千葉さんを
ちらりと見れば


千葉さんの目は輝いていて
その眩しさに思わずクラッとした。


「やっぱりMelloちゃんと組んで良かった!」


「あ……ありがとうございます。
こんな私なんかに……」


「『こんな』なんて言わないで!
俺はね、心からMelloちゃんを
尊敬してるから、一緒に仕事してみたいって
思ったんだよ!」


「あっ」



うーん……


千葉さん……何で私の両手掴んでるんだろう



千葉さんが無邪気で明るい人なのは
テレビで見てたから分かるんだけど


こんなに熱血っぽい部分を持ってたということは
予想外だったな。