それにーーーと、椎名くんは短い間を挟んだあと、私から顔を逸らして遠くに視線を投げた。



「……オレも、この場所嫌いじゃない」



ぽつり、と零れた声。

ゆっくり宙を舞う独り言のようなその声は、どこか切なそうに私の耳に届いた。



「明日から、ちゃんとここに来いよ?明日になって……いきなり逃げるのはなしだからな」
       


振り返った椎名くんの声は、さっきの独り言は聞き間違いかと思わせる程、至って普通で。



「……っ、はい、」



だから、私はまるで恋愛小説の中でしか起こりえないであろう出来事に戸惑いながらも、椎名くんから目を逸らさずに返事をしたのだった。