ゆっくりと解放された手は冷たい風を受ける。



「……本当は、諦めてほしくなかった」



ぽつり、と。

宙に零れた力ない声が掠れていた……。



「楓に……自分を諦めてほしくなかった」



私と国崎くんはしばらく動けずに、ただただ静寂に包まれたその場を立ち尽くしていた。



ねぇ、椎名くん。

椎名くんは私に言っていたよ。



ーーー“伝えたいのに、拒絶されたらって考えたら怖くて言えない……そんなの当然、だよな”って。



本当は、伝えたい言葉があるんじゃないのかな。


怖くても、自分の言葉を伝えることの大切さは、椎名くんが私に教えてくれたんだよ。


ーーーだから、どうか諦めないでほしい。


そう願ったら、椎名くんの笑った顔が浮かんできて、すぐに滲んでいった。