「アンタなんかに助けてくれなんてっ、頼んでないのよ!わかったら離しなさいよ……!」


「……は、はい!」



慌てて春風さんの肩から手を離せば、もう乾いてしまった赤いスプレーのついた指が行き場をなくす。



「「ヒッ…………!」」



春風さんも、鬼の形相をしていた美人な先輩も、私の血塗られた指を見て悲鳴を漏らす。



「……えっ?あのですね、こ、これは、ただのスプレーで、決して血では………、」



必死に身振り手振りを動かしても、後退りをする二人は、口論していたことも忘れて共に走り去ってしまった。


……まただ、と項垂れる私が廊下に一歩出れば、



「……っ、」



バッタリと、まさか椎名くんと出会すなんて……。

目が合った瞬間、すぐに逸らされた瞳。

胸に傷をつけられたような痛みを覚える。



怖がられるよりも、何よりも、交わることのない視線が、ただ悲しかった……。