ーーーパタンッ。


私は、手にした恋愛小説を素早く閉じた。



「い、いやぁ……あっ、ありえない……」



というか、本の中から甘い匂いが漂って、読んでいたこっちまでクラクラしちゃうような……。


黒いブックカバーをチラっとめくり、タイトル“腹黒王子と総長様に溺愛されて”……に目を落とす。



「こっ、これが俗に言う……あまあま小説っ、王子様と地味子の、れ、恋愛というやつ……」



確かに、これぞまさに憧れのシチュエーションではあるんだけど……。


こんなこと、現実にあるはずないと心の中で思わずポツリと本音を漏らした。


だって、甘い言葉を囁いてくれる王子様が、学校一の地味子を敵対する総長様と奪い合う……。