…違う。


こんなの私の知ってるあの優しいキスじゃない。


私の知ってるキスは甘くて優しい、幸せになれるキス。


軽く触れて、一旦離れて浅いものから深いものへと変わる。


それに…いつもキスをするとふわりとミントの香りがする。


それが私はすごく好きだった。


記憶を無くした今でも。


「っ!!いやっ!!!!」


そんなことを思い出すと、嫌悪感しか湧かなくて。


まさか私に殴られるとは思わなかったんだろう。


頬を押さえながら驚き固まっている。


だけどそれは本当に一瞬で。


次の瞬間には悲しそうな顔へと変えられる。


「あっ…ご、ごめんっ!!」


ごめん。


ごめんっ!!


謝罪しか出てこなくて。


いつの間にか降ってきた雨にびしょびしょになりながら、家まで走る。


雨と共にこの気持ちも流れてしまえばいいっ。