天国の不動産





好きな言葉は「現状維持」だった。




中学からも高校に上がるのも、高校から大学に上がるのも、19歳から20歳になるのも、平成が令和に変わるのも、なんだかとても怖かった。




「変わる」ということがすごく怖かった。




変わった先に曖昧なイメージしかないのがすごく怖いのだ。





「今日はやめておきますか?」




門番が首を傾げる。




僕は息を呑んだ。




今日まで自分で選択してこなかった。




ずっと誰かに背中を押され、誰かに選択を委ね、責任を押し付けてきた。




大人になりきれていないまま死んでしまった僕の後悔。





「今日で最後にします。今日、葵の記憶が消えなくても、これで終わりにします」