不動産には相変わらず、山下が行儀よく座っていた。




「逢坂湊さん、おかえりなさい。生界に行っていたようですね」




こちらの気も知らず、ニコニコと微笑む。




「あ…はい…まあ…」




僕のぎこちない返事からは、大人との会話の慣れてなさが窺える。



「生界に行ったことにより、あなたの記憶を無くしてしまった方を聞きに来たということで間違いないですか?」




山下の目線は画面を向いており、パソコンをカタカタとリズミカルに叩きながら、声だけをよこす。




「あなたの記憶が無くなった方は…えーと…中橋円さんです」


「中橋円?」



聞いたことあるような、ないような。