葵はただただ立ち尽くしている。
特に何かをするわけでもなく。
事故現場は全て日常に戻っていて、あの日を騒がせた救急車も、前方がぺちゃんこになったトラックも、たまたま通りかかった野次馬も、もうどこにもいない。
残ったのは道路に少しだけ、トラックのブレーキ痕。
葵はひたすらそれを見つめている。
時折聞こえる道行く人のコソコソ声。
「あの子、また来てるよ」
「ここで亡くなった男の子の彼女さんらしいよ」
「まあ彼氏事故で死んじゃったら立ち直るにも時間掛かるけどさ…毎日来なくてもねえ…」
1週間も何も無い道端に、目的もなくただただ立ち尽くしていると、やはり不気味なのだろう。
加えてこの顔色と雰囲気だ。
葵には同情と憐れみが向けられていた。


