そう街が活気づいてきた頃、事故現場にはさっきまでなかった花が添えられていた。



一瞬、息の仕方が分からなくなった気がした。




そこには、見覚えのある女性が、見たことのない表情で立ち尽くしていた。



顔色は悪く、表情は暗く、彼女の周りだけ雲がかっているような、そんな色に見えた。




「葵……」




それが本当に僕が認識した人物であるのか信じ難い程、以前とは雰囲気が違っていて、どうか自分の勘違いであって欲しいと願いながら、その名前を口にした。




だが、その声は届くことなく、彼女は添えられた花をひたすらに見下ろしている。





「葵……」



名前を呼びながら少しずつ近づいてみるが、気付いてもらえるはずもなく、触れてみるもその感覚はない。



動かせもしない、朝家の玄関を開けようとした時と同じだった。