「葵まで、死んだりしないよね?」
有明が苦しそうな顔で言う。
たぶん、ドキリとした。
心臓という実体がないから、この表現も比喩になってしまうのだが、感情を感覚で例えると、そういうことだ。
僕はそっと大学を後にした。
向かうところは言うまでもなく、自分の事故現場。
ここで会えなかったら彼女の家に行く予定だったが、そんな話を聞けばそこに行かない理由はない。
僕は疲労の溜まった体を引きずりながら、元来た道を戻った。
今のところ知り合いは自分のことを覚えている様子だ。
誰の記憶から逢坂湊が抜け落ちてしまったのか分からない。
深く関わった人じゃないと良いけど。
覚悟してきたつもりだったけど、やはり怖かった。
また、お気に入りのアイスクリーム屋さんを通る。
駅構内の時計は12時を指しており、さっきは閉まっていたシャッターも開いていた。


