約束の場所に、彼女はもういない。



今頃大学で友達に囲まれて泣いているかもしれない。


彼氏が死んで一週間だったらまだほかの男に乗り換えたりしていないことを信じたい。



僕は大学へ向かった。



今日は水曜日だから3限からだったはず。



ちょうど着いた頃には彼女も大学にいるはずだ。



再び駅まで歩き、仕方なしの無賃乗車。



少しだけ悪いことをしている気分になった。



見えてないなら優先席にも座ってしまえ。




普段やらないことをしたくなる、透明人間の気分を少しだけ楽しんだ。



だけど、透明人間というものはどうも淋しいものだった。




街中にはこんなに人で溢れかえっているのに、まるで1人ぼっちだ。



いつもは鬱陶しかった花屋のおばちゃんも声を掛けてはくれない。



仕方ない。死んだんだから。




それだけで、自分の死を自覚するには充分すぎた。