父はすでに仕事に行ったらしい。



がらんとした家の中、一人になった母がため息をつきながらふらふらと客間の方へよろめいて行った。



自然とそれに着いていってしまう。



そこに何があるかは大体分かっていた。



生きている時にはなかった自分の仏壇が、不自然とそこにあった。



3人分の線香が細々と煙を立てている。



母はそれを見ながら一筋の涙を流した。



自分が死んで、悲しんでくれる人がいる。



泣いてくれる人がいる。



けれど、1週間も経てば日常は戻ってきていて、仕事にも学校にも行って、いつの間にか自分のいない日々が日常になる。




何も悪いことじゃない。それでいいはずなのに。




分かってはいるけど、まだ死んだことに気持ちの整理がついていない中それを考えるのはハードルが高かった。