背中を押されて学校へ向かう妹だったが、まだまだ家から見える距離ですでに涙を拭っていた。
母は悲しげな顔で妹が見えなくなるまで見送った。
玄関の扉が閉まる。
僕は慌てて母の腕の下をくぐり抜け、挟まれそうになりながら中へ入った。
間に合わずもし挟まれていたらどうなってしまうんだろう。
扉が閉まらなくなるのか、はたまた空気のようにすり抜けてしまうのか、色んな想像をしてみたが、特に知る必要を感じず、すぐに考えるのをやめた。
母の肩もだいぶ下がっている。
僕が死んだことによって、家の空気はガラリと変わっていた。
重く、重く、灰色がかった、今にも雨が降りそうな、知らない家の空気だった。
当たり前か。家族が一人、死んでしまったんだから。
知っている家のはずなのに、まるで知らない家にいるようで居心地が悪かった。
「自分の家なのに」とつられて肩を落とした。


