「兄ちゃん、そこの兄ちゃん!」




想像通りのガラガラ声。



おじいさんが声を上げる。



辺りを見回さなくても分かる、呼ばれているのは自分だと。




僕は一瞬驚きを見せ、「は、はいっ……」と間抜けな返事をした。




「天国ってのは、いいところだねえ」




空を仰いで見せるおじいさんに「はぁ……」と困ってみせる僕は、やはり面識のない他人と話すことにはいつまで経っても慣れないものだった。





「長い、人生だったよ」




「そう……ですか……」




会話が途切れる。



この()が気まずいのか、また話しかけられてしまうんじゃないか、どっちの不安なのか、僕には分からなかった。



自分の感情を表に出すことを避けてきた僕は、自分の感情に気付くことも苦手だった。





やっぱり気まずかったのかもしれない。


思わず声を出していた。




「不動産から、説明聞きました……?」




恐る恐る、顔色を伺うように聞いてみた。