「昔の記憶以外には感情が表に出やすくなる。ってことくらいか……。何かを思い出すためには、もっと長い時間部屋に入ることが必要になってくるのかもしれないな」


弘明が言う。


「長時間は危ないよ。それなら入る時間はそのままにして、何日かに分けて繰り返し入る方がいいと思う」


伶香が言う。


2人の間ではどんどん会話が進んでいるけれど、健がその中に入っていく事はなかった。


健があたしの手を握りしめてくれている。


「明日花。大丈夫からな、な?」


そう言っていつもと変わらない笑顔をくれる。


「あたしの……せいだから……」


かわいた唇でそう言った。


すると健は眉を下げて大きく息を吐き出した。


「仮にそうだったとしても、俺はお前の事を好きになってたよ」


健が言う。


あたしは左右に首を振った。


それは、こんな状況だから言える事だ。


普段の生活の中であたしが郁美にしていたことを知れば、あたしから離れていたかもしれない。


「ちょっと、しっかりしなさいよ」


伶香がそう言い、あたしの背中を強く叩いた。


その衝撃であたしは顔を上げる。