ラティアの月光宝花

オリビエが、女性を。

ズキズキと胸が痛くて、セシーリアは咄嗟に胸を押さえた。

自分なりにあの日の事を道筋をたてて考え、納得しようと試みる。

オリビエはきっとあの女性を愛してるんだわ。

だから度々街へ行き、彼女を抱いていたのだ。

『愛してる、セシーリア』

荒い息の間から切な気にそう囁き、あの女性をあられもない体勢で組み敷いていたオリビエ。

「……っ……!」

ツン、と鼻の中が痛んだ。

オリビエが、同じセシーリアという名の別人を愛しているという事実。

……ダメだ、涙が。

セシーリアは涙を拭きながら立ち上がった。

強くなきゃダメ。

ラティアの薔薇と呼ばれているじゃないの、私は。

この国にしか咲かない、一度咲いたら枯れるまで決して花びらを閉じることのない、ラティアの薔薇。

私は、ラティアの薔薇に負けないくらい強くなりたい。

セシーリアは眼を閉じて大きく息をした後、部屋を出て薔薇園へと向かった。


******

神殿の南側には多種類の花を栽培した畑があり、その更に南にバラ園が広がっている。

セシーリアはゆっくりとそのアーチ型の門をくぐると、薔薇の間を進んだ。

「綺麗……」

バラ園には、燃えるような深紅の薔薇もあれば汚れを知らぬ純白の薔薇もある。