ラティアの月光宝花

「じゃあ剣術」

「貴女は軍人ではありません」

心底呆れ返っているマリアを見て、セシーリアは思った。

「……他国の王女は一体どうしているのかしら」

詩の朗読と、刺繍、それに歌を習っているの?

「少なくとも剣術も弓矢も格闘技もなさらないと思います」

「そうなの?!」

本気で驚いているセシーリアに、マリアは再び溜め息をついてから口を開いた。

「セシーリア様は女性なのですから、武術など習わなくてもいいのです。それはこの国の軍人の努め。貴女には護衛係が付いておいでになります。守られておくのがあなたの仕事なのです」

護衛係……。

セシーリアが公の場所に顔を出す際には、正式な護衛役が必ず傍に付いているが、普段はレイゲンが自分の息子であるオリビエをその役に命じていた。


『僕はあなたの護衛役です。それに、貴女の世話係でもある。今後はこのような振る舞いをなさるのは控えてください』


オリビエはこう言ったっけ。

どうしているのだろう、オリビエは。

セシーリアはあれ以来……街の売春宿での一件以来、オリビエには会っていなかった。

マリアが帰っていった後、セシーリアは一人きりになった部屋で窓の外を見つめた。

オリビエは多分……もう私にウンザリしているわよね。

そう思うと次第に胸が苦しくなって、セシーリアは眉を寄せた。

たちまちあの頼りない炎が揺れる薄暗い部屋の光景が眼に浮かぶ。