ラティアの月光宝花

「だがセシーリアは世間知らずだ」

アンリオンが心配するのも無理はない。

他国の王女同様、セシーリアは今まで、蝶よ花よと大切に育てられてきたのだ。

城から抜け出しはするものの、セシーリアは安全な城下町しか知らない。

しかもイシード帝国の奇襲に乗じて、増えている族に遭遇しかねない。

けれどセシーリアは、アンリオンの予想をアッサリと跳ね返した。

「大丈夫よ、アンリオン。私はもう子供じゃないわ。それにエシャードって元は独立国家だったのよね」

マルケルスは僅かに眼を見張った。

まさかこの現状で、セシーリアがそんなことを勉強していたなんて露にも思っていなかったのだ。

「お父様が亡くなられた今、いつどの都が独立を叫びだすかも分からない。もしくは他国へ寝返るかもね。だって未だかつて女王がこのラティアを治めた事なんてないんだもの。皆が皆、娘以上に歳の離れた私についてきてくれるかなんて分からない。イシード帝国に寝返られる可能性だってあるわ」

…確かにほんの二十年前まで、エシャードは独立国であった。

だが当時のエシャード帝国は軍事力に乏しく、度重なる他国の侵略に苦しんでいたのを、ロー・ラティアが我が帝国の領土として召しあげた。

それにより、国としては消滅したが人々は豊かになり、安定した暮らしを送れるようになったのだ。

マルケルスは大きく頷くと口を開いた。

「セシーリア。エシャード城主ライゼン・エシャードに会い、再びこのラティアに忠誠を誓わせてこい。それから」

マルケルスが一旦言葉を切り、シーグルへと向き直った。

「シーグル。セシーリアの護衛役はお前だ。死んでも守れ」

「分かった」

シーグルの榛色の瞳がキラリと光った。