「水槽に魚は入れないんですか?」

「コケを食べてくれる魚を入れてもいいんだけど、今のところは予定は無いかな」

「どうして水草水槽を作ったんですか?」

「癒されるから」

「それは……仕事でストレスを感じてるからですか?」

「あ。僕の地雷踏んだ」

「あっ、ごめんなさい」


わざとらしく拗ねた仕草をした沖田さんは、慌てて謝る私を面白そうに見ていた。
こういう冗談も言える人らしい。


「沖田さんがこんなに話しやすい人だとは思ってませんでした」

「そう?気の利いた言葉もかけられない、営業マンとしては致命的な奴だって係長に言われたことはあるけど」

「私も呑気な事務員だって今日言われましたよ」


思い出しても威圧的な綱本係長の顔が浮かんできて、せっかくの週末なのにとガッカリする。
よりによって金曜日の夜に言わなくたって。
でも係長はそういう人だ。


「そんな時は水槽を見てみて」


イラッとしかけた頭に沖田さんの穏やかな声がして、言われた通りに水槽を見やる。

こっちのざわついた気持ちとは無縁の、ゆっくりとした時間が流れる水草水槽には、確かに癒し効果があるような気がしなくもない。


「ね、いいでしょ。水草水槽」

「………………うん」


うなずいた私に、沖田さんは頬杖をついて嬉しそうに微笑む。
その顔を見たら、ちょっとだけ心が和んだ。


もしかして癒し効果があるのは沖田さんなのかも?