もうずっと、誰かにこんな風に接してもらったことはなかった。


友達はいないし、両親とは仲は悪くないけどあまり深い話はしない。


だから、本音を話せるのはツキだけで、外に出ればひとりぼっちだと思っていたけど……。


クロは、そんな私のことをちゃんと見て、真っ直ぐに向き合ってくれている。


そのせいで、最初は苛立ってばかりだったのに、今は彼の存在に少しずつ救われ始めていることを否定できなくなっていた。


いじめに遭う前だったとしても、両親以外にここまで向き合ってくれた人はいただろうか。


こんな私に対して優しく接してくれ、時には厳しい言葉を放ち、今みたいにそっと気づかせてくれる。


そんな人は、私の周りにいただろうか。


彩加は優しかったけど、誰に対しても厳しいことを言う子ではなかった。


学校でも家でもあまり叱られた記憶がないから、彼女も特に言うきっかけがなかっただけなのかもしれないけど、どちらにしても他人にここまで向き合ってもらった記憶はない。


その事実に気づいた時、感謝の気持ちを抱くよりも早く、心が戸惑いに包まれた。


そして、面識のなかったはずのクロが私に対してこんな風に接する理由を、出会った頃とは違う意味で知りたくなってしまった。