それから、お墓を拭いて、スズランを供えて、私は墓地を出た。 そして向かったのは1年前と同じ海。 潮の香りが微かな風に乗って私に届く。 波の音しかないこの状況も去年と同じ。 ただひとつ去年と違うのは私の手の中にスズランがないこと。 それがなんだか誇らしかった。 「杏」 「……………ほんと、去年のまんまだ」 今年は、逃げたりしないけど。 息が上がっているところまで、そのまま。 きっとまた、走ってきてくれたんだね。