「おれはこのところ恋人なしの独り身にも慣れてしまって、でも、覚えてますよ。
失恋したとき、すごく痛くて寒かった。
だから、これ、どうぞ」
差し出された飲み物は、どこか甘い香りのする紅茶。
「いただきます」
琥珀色に息を吹きかけて、カップに唇をつける。
温かくて甘い。
スッと鼻に抜けた香りは、のどに落ちて、じわりと熱く染みる。
「ジンジャーシロップを落とした紅茶です。内側から温まるでしょう?」
甘くて、ひりひりする。
熱いけど、爽やかで。
「おいしいです」
つぶやいた瞬間、ぷつんと、何かの糸が切れた。
鼻の奥が、ツンと痛い。
声をあげる隙もなく、ふくらんだ涙が、ぽろっとこぼれた。
あ、やばい。
これ、止まらない。



