「だから、あたし、いつも譲るんです。
お菓子でもヒロイン役でも、何でも。
手に入れなければ、失うことはないから。
あたしよりほしがってる人、必ずいるし」
恋もそうだった。
カイトさんのこと、好きで好きで、今でも胸がひりひりするほど好きで。
だから、すぐに気付いたんだ。
カイトさんのヒロイン役はあたしじゃないんだって。
「ハジメさん、失恋したことありますか?」
「え?」
「失恋って、痛いんですねー」
あたしのへらへら笑う癖は健在だ。
痛いって言いながら、あたしはハジメさんに笑ってみせている。
ハジメさんは、温かい飲み物をカップに注いだ。
赤みがかった琥珀《こはく》色がキレイだ。



