私、今から詐欺師になります

「あー、そうですよね。
 手がかかるとか私に言われたら」
と言うと、

「……いや、あいつが怒るの、そこじゃないだろ」
と言われた。

「なんで茂野とあっさり結婚した。
 好きなわけじゃなかったんだろ?」

 そんなことを穂積は訊いてくる。

「俺もなんだか無理矢理に見合いを勧められたことがあるが。

 この女とは一緒には暮らせないな、と思って、強引に断った。

 お前はそういうことを思わなかったのか?」

「そんなこと思う暇もなかったですね。
 すごい勢いで持ってかれた感じで。

 それに、断れる立場にはなかったですから。

 ほとんど吉原に……」

 吉原に売られた感じですよ、と言うのは穂積の前ではちょっと恥ずかしく黙った。

 察してか、穂積も一瞬黙ったが、
「好きな男とか居なかったのか?」
と訊いてくる。

「ドラマみたいに誰かが連れ去ってくれないかな、とは思ってましたが、誰も来てはくれませんでしたよ」

 はは、と茅野は笑って見せる。

 まあ、現実なんて、こんなものだ。