私、今から詐欺師になります

「あの、穂積さんは、秀行さんがお嫌いですか?」
と問うと、

「昨日今日で、急速に嫌いになったかな」
と言い出す。

「ええっ?
 面倒な私を押し付けられたからですかっ?」

「茂野がお前を押し付けてきたわけじゃないだろう」

「あの、秀行さんがお嫌いなのに、何故、私を雇ってくださったんですか?
 もしかして、私を雇って、秀行さんの会社の秘密を……」

「なにか知ってるのか?」

「いえ、なにも知りません」
と即答すると、だよな、と言われた。

「すみません。
 穂積さんがそのような方ではないとわかっているのですが。

 こんな立派な会社に日雇いとはいえ、雇っていただけたのが信じられなくて。

 なにか裏があるのではないかと、つい、勘ぐってしまうんです」

「……なにか裏があるんじゃないかと思ってるのは、俺の方だが」

 溜息をついて言う穂積を、え? と見上げると、
「いいから帰れ」
と言われた。

「はいっ。
 ありがとうございましたっ」
と茅野は頭を下げ、胸にあの茶封筒を抱いて、社長室を出て行った。