私、今から詐欺師になります

「持ってきた人と、拾った人は違うみたいですよ。

 拾った人は此処の人じゃなかったみたいで。

 この中央インフォメーションの位置がわからなくて、さっき、持ってこられた人に、この携帯を預けられたみたいなんです」

「その今、持ってきた人って、誰?」

「さあ?
 お名前を伺おうとしたんですが、いやいや、って言われて居なくなられて。

 此処の社員の方のようでしたけど。
 たくさんいらっしゃいますからね。

 私も目立った方しか把握はしてないんですよ」

 そうなんだ、と言ったあとで、省吾は、
「じゃあ、実は、僕のことも覚えてないとか?」
と笑って佐緒里に言う。

「奈良坂さんは覚えてますよー」
「あ、ほんとに?」

「何度もランチに誘っていただきましたから」

 ……何度も断られてるけどね、と思いながら、ありがとう、と言って、省吾は携帯を手に、その場を去った。