「えっ。
じゃあ、昨日から落ちてたの? これ」
奈良坂省吾は受付の秋本佐緒里(あきもと さおり)にそう確認する。
茅野の携帯は、アプリを作る会社の社長夫人のものとも思えない古い携帯だった。
とりあえず、茅野を探して、ビルの中をウロウロしていたのだが、途中で、受付嬢に訊いてみようと思って、受付に立ち寄ったら、ちょうどカウンターの上に、見覚えのある古い携帯が載っていたのだ。
今、届けられたところだと言う。
「そうかもしれませんね。
朝早くに、バスセンターを通った人が見つけられたみたいですよ」
と佐緒里は言う。
なんだ。
今日、茅野さんが此処に居たわけじゃなくて、昨日、携帯を落としてたのか。
さっきの社長の表情。
なにかありそうで、怖かったからな。
嵐が到来せずにすみそうな気配に、省吾は安堵していた。
それにしても、なくしても気づかないなんて、茅野さんらしいな、と苦笑しながら、佐緒里に問う。
「あの、お礼がしたいんだけど。
誰が拾ってくれたのかな?」



