私、今から詐欺師になります

 


 危ないところだった。

 タッチの差だったな、と玲は物陰からその様子を眺めていた。

 自分が受付を離れたとき、入れ替わりに、エレベーターから見覚えのある茂野のところの社員が降りてきて、受付に行った。

 茅野の携帯を受け取り、受付嬢から説明を受けている。

 エレベーターに乗り込みながら、危ない危ない、と思う。

 あれ以上、茅野と無駄話してなくてよかった。

『だから、早く行ってくださいって言ったじゃないですかーっ』
と愛らしく罵る茅野を想像し、笑ってしまった。

 いっそ、怒られたい。

 子供に叱られるみたいで和みそうだ、と思ったとき、奥の鏡に映る自分の姿が目に入った。

 珍しく、作り物でなく、楽しそうな表情をしている。

 黙って、それを眺めていると、
「あの……」
と遠慮がちな男の声がした。

 見ると、階数ボタンの辺りに居た男が、開けるのボタンを押してくれているようだった。

 先程、自分が、この階のボタンを押したのを見ていたようだ。