私、今から詐欺師になります

「俺にジュースも飴も奢ってくれたし」
と言いながら、茅野を強く抱き締める。

「それは罠です」
「罠?」
と穂積が茅野の顔を見た。

「実は、貴方を騙すための罠だったんですよ」

 そんな軽口を叩く余裕が戻った茅野の顔を見て、穂積は少し笑う。

 その顔が本当に好きだと思いながら、もうこれで最後にしようと、その胸に顔をうずめていると、穂積が言った。

「学生時代、俺は、数学が好きだったんだ。

 だから、今でもなんにでも必ず、ピタッと来る正解があって、物事はすべてそこに向かって動いていると思ってしまう。

 でも、違うんだな。
 特に恋愛なんかだと」

「答えのない数学の問題もあるだろ」
と声がした。

 いつの間に来ていたのか、秀行が立っていた。

 こちらを見て、溜息をついて見せる。

「茅野。
 そんなにそいつが好きなら、二、三年付き合え。

 どうせ、すぐに飽きる」

「秀行さん」