私、今から詐欺師になります

 秀行が自分を抱き締めてくる。

「あのとき、お前に出会わなきゃよかったな……」

「え?」

「あの日、図書館で出会って、強引に結婚しなければよかった。

 あの日、お前と出会ったのが、穂積で。

 今、穂積に飽き飽きしたお前に出会うのが俺ならよかった」

 いや……待ってください。

 何故、私が穂積さんに飽き飽きしなければいけないんですか。

 そんなに秀行さんのことを嫌いなわけではないかもしれないけど。

 この、時折、勝手に展開する物語についていけなくなるのは事実だ。

 出会った次の瞬間にもう、自分が彼と結婚するストーリーが彼の中で出来上がっていたように。

「来い、茅野」
と腕を引っ張られ、

「い、嫌ですっ」
と振りほどこうとするが、ナイフは弾みで、二時間サスペンスのように刺してしまってはいけないので、遠くに放った。

 ナイフが床に転がる音を聞きながら、そちらを見て、秀行が、
「ほら、役に立たなかったろ」
と勝ち誇る。