私、今から詐欺師になります

 




 とりあえず、茅野の携帯にかけてみたのだが、彼女は電話に出なかった。

 電源が入っていないか、電波の届かない地域に居ると返答がある。

 なんだか嫌な予感がするな、と思った。

 ちょうど急ぎの仕事はなかったので、エレベーターで一階まで降り、茅野の自宅に行こうとすると、受付近くで省吾と出会った。

「おはようございます、穂積さん」
と挨拶してくる省吾がなんだか落ち着かない。

「どうかしたのか?」
と訊くと、

「いえ、あの。
 ……茂野社長がまだ」
と言いかける。

 そのとき、
「俺がどうかしたか?」
と声がした。

 見ると、ちょうど秀行がロビーに入ってきたところだった。

 駆け寄った省吾が、
「あっ、社長っ。
 携帯も電話も通じないから、どうされたのかと思いましたよ」
と言うのが聞こえた。

 秀行はそのままエレベーターに向かって歩きながら、
「携帯は充電するのを忘れてたんだ。
 電話線は昨日、茅野がうっかり切った」
と溜息をついて言う。

「あの莫迦、また刺股を出してきたんだ」
と言いながら、エレベーターに乗り込む。

 こちらを向く形になった茂野に言う。

「茅野がまだ出社してないが」