私、今から詐欺師になります

「……え、でも」

「一度始めたことは最後まで、だろ」
と言いながら、穂積は茅野をソファに横たえる。

 だが、茅野は穂積の唇を手で押さえて言った。

「無理です。
 そんなことしたら、私、もう、秀行さんのところには戻れなくなるから」

 秀行さんを夫として愛しているわけではないけれど。

 あの人とまだ夫婦である以上、そんなことは出来ないと思った。

 それに、きっと、穂積さんの側にずっと居たいと願ってしまうと思うから。 

 穂積は軽く茅野を睨んでみせる。

「本当に手間のかかる女だな。
 誰がこんな風に育てたんだろうな」

 でも、と言い、茅野の手をつかんだ穂積は、その掌に口つげて言う。

「残念ながら、そんなお前が好きなんだ。
 初めて出会ったときから」

 だから、もう一度だけいいか? と訊き、少し笑って、口づけてきた。