私、今から詐欺師になります

「なんで、俺のところをクビになったらとか言う?」

 茅野は黙った。

「自分が辞めるつもりなんだろう?」

「いえ。
 仕事ではなく、詐欺を辞めようかな、と思って。

 そしたら、穂積さんは、たいしてお役に立たない私なんて、お側に置いてはくださらないだろうと思いまして」

「……二、三突っ込みたいことがあるんだが、いいか?」
と問われ、はい、と言う。

「まず、俺はお前が結婚詐欺師だから側に置いておいたわけじゃないぞ」

 だいたい、詐欺師を好んで採用する会社があるか、と言われる。

「それから、お前が役に立たないなんてことはない。
 お前はよく働くいい社員だ、茅野」

 なんだろう。
 ちょっと泣きたくなった。

 だが、穂積は、
「俺が茂野を許せないのは、そこのところだ」
と言い出した。

「あいつは、お前に自分はなにも出来ないと思い込ませて、家へ閉じ込めようとしてた」

 でも、と穂積は表情を曇らせる。