私、今から詐欺師になります

 更に風も強くなってきた。
 歯の根が合わないほど寒くなってくる。

「強烈にっ、寒いですっ!」
と台風の実況中継のように言いながら、食べていると、穂積が言った。

「寒いだろ」

「はいっ。
 人生で最高に寒いかもですっ」

 すると、穂積は笑って言ってくる。

「此処はもう、お前と茂野が初めてキスした場所じゃない。
 俺とくそ寒いのに、並んでジェラートを食べた場所だ」

 嫌な記憶は、より強烈な記憶で塗り替えればいい、と言う。

 そして、上着を脱いで肩にかけてくれた。

 服に残る穂積の体温で、一気に身体が温まる気がした。

 だが、はた、と気づき、慌ててそれを脱ぐ。

「いっ、いいですっ。
 穂積さんが風邪をひきますっ」

「もうひいてるからいい」

「駄目ですーっ」

「詐欺師がカモにする人間の身体の心配なんてしなくていいだろ?」
と笑うので、

「いいえ。
 七億いただくまでは、元気で働いていただかないとっ」
と言うと、

「亭主元気で留守がいいって言う奥さんみたいだな」
と笑われた。