私、今から詐欺師になります

「あそこで秀行さんに、初めてキスされたんです」

 穢されたと思った。
 今まで、誰ともそんなことしたことなかったのに。

 穂積がその東屋を見ながら言う。

「まさか……。
 それで、穢されたとか思って、諦めたんじゃないだろうな」

 うーん。
 なんでこの人、私の思考が読めるんだろうな。

「莫迦か……」
と溜息をついたあとで、穂積は少し考え、

「やっぱり、あそこにしよう」
と言ってきた。

 ちょっと来い、と言われ、さっきのイタリアンの店に戻る。

 茅野が、食べたいけど、今はお腹いっぱいだと言ったグアバとオレンジのジェラートを買ってくれる。

「行こう、茅野。
 寒いんだろ?」
と言って、車に乗せられる。

 そのまま、車はあの東屋に向かった。

 穂積が秀行とキスした場所を訊いてくる。

 その側にベンチがあった。
 そこに腰掛けようと言う。

 嫌なことを思い出しながら、ベンチに座ると、公園より更に強く風が吹きつけてきて、寒かった。

 思わず、身震いしていると、
「ほら」
とジェラートをひとつ渡される。