なんだったんだ、と思って見ていると、穂積は、自分はなにも頼まずに、テーブルの上の伝票を取りながら、
「お前をナンパしてくるとは勇気のある奴だ」
と言い出した。

「え?
 ナンパだったんですか? 今の」

「まあ、そういう軽い感じでもなかったが」
と振り返りながら、

「俺なら茅野には声はかけないが……」
と呟いていた。

 えっ。
 どういう意味ですか、それっ。

 私なんぞ、問題外って意味ですかっ。

 他の、もっと綺麗だったり、色っぽかったりする人なら、声をかけるんですかっ。

 ぐるぐる考えている間に、
「行くぞ、茅野」
と穂積は勝手にレジに払いに行こうとする。

「あっ、待ってくださいっ。
 私が払いますっ」

「黙れ、詐欺師」
と言いながら、穂積はさっさと金を払いに行ってしまった。