私、今から詐欺師になります

「……ありがとう」
と穂積が言ってくる。

 しかし、あの激痛が、出産の痛みなのか。

 ……茅野に子どもを産ませるのは可哀想な気がして来たな。

 なんとか痛くなく産む方法はないものか、と無茶なことを思いながら、
「じゃあな」
と別れたあとで、すぐ取引先の部長と出会う。

 部長と言っても、会社の規模が違う。

 年もかなり上だし、貫禄があり、向こうの方が遥かに立場が上な感じだ。

 自社ビルの前でこちらを見ている。

 丁寧に挨拶すると、部長は秀行の後ろを見ながら、
「古島社長とお知り合いだったんですね」
と言ってくる。

「はあ、まあ」
と曖昧な返事をすると、

「随分と仲がよろしいようですね」
と言われた。

 そうですか? と思いながらも、端から見たら、意外とそう見えるのかもな、とも思う。

 此処数日、かなりの確率で穂積に出会うし、彼のことを考える機会も多い。

 仕事関係の人間で、あんなにプライベートに踏み込んでくる人間も居ないし、と思ったとき、部長が言ってきた。