私、今から詐欺師になります

 



「今日は難航しそうですよね。
 具合い悪いのに連続して出て来ていただいてすみません」

 オフィス街を歩きながら、そう省吾が謝ってきた。

 秀行は、
「いや、いい。
 痛みはあれからないから、知らないうちに出たか、尿管の狭い部分を通過したんだろうよ」
と言いながら、商談相手との待ち合わせ場所に向かう。

「そうなんですか。
 よかったです。

 じゃあ、茅野さんもご安心ですね」
と笑ってくるので、

「いや、茅野には言ってない」
と言うと、

「ええっ?
 なんでですかっ。

 誰より茅野さんが心配されてるのに」
と言われる。

 そんな省吾を冷たく横目に見ながら、秀行は言った。

「なにをあれが心配などしているものか。

 看護師が、朝、大丈夫ですかー? ってやってきたとき、茅野は世間話を始めて。

『こういう人は世にはびこるから、大丈夫ですーっ』
とか俺を見て、笑っていたぞ。

 車椅子がガタついたから、押している茅野に文句を言ったら、
『石が飛び出ていいんじゃないですか?』
とか言ってたし。

 あいつ、あの穏やかそうな笑顔で、俺より辛辣だぞ」