私、今から詐欺師になります

「私が落ち込んでるのを知って、一生懸命慰めようとしてくださるんです」

 そう言いながら、あ、落ち込んでるなんて言わない方がよかったかな、と気づく。

 慌てて、話題をそらすように、
「これから、玲さんとお出かけになるんですよね?
 行ってらっしゃいませ」
と言い、頭を下げる。

 では、と行こうとしたが、進行方向を手で塞がれた。

「茅野」

 いつも聞くたび、どきりとしてしまうあの声で穂積が呼びかけてくる。

 少しその手から離れるように斜めに後退したので、自動販売機に背をぶつけてしまった。

「今日、早くに仕事終わらせるから、ちょっと付き合ってくれ」

 少し迷う顔をすると、穂積が言ってきた。

「茂野も病人かもしれないが、俺も病人だ。
 いたわる気持ちはないのか?」

 そういえば、そうだな、と思う。

 秀行さんはもう元気に飛び回ってるし、帰りは遅いだろう。