私、今から詐欺師になります

 



 読み合わせが終わったあと、廊下の自動販売機に温かい紅茶を買いに行った茅野は、穂積と出くわした。

「茅野」
と呼びかけてきた彼に、

「あ、声が出るようになりましたね」
と微笑む。

「これも効きますよ」
とホットの蜂蜜レモンのボタンを押し、

「珈琲の合間にでも飲んでください」
と差し出したが、穂積は受け取らずに差し出した茅野の手を見ていた。

「……穂積さん?」

 あ、嫌いだったかな、と思ったのだが、穂積は笑って、
「ありがとう……」
と言ったあとで受け取る。

 穂積は湯気を浴びながら、それを一口に飲むと、言ってきた。

「そういえば、お前、詐欺師なんじゃなかったのか。
 お前が貢いでどうする?」

 飴に続いて、120円も、と言われ、茅野は笑った。

「玲さんって、とてもいい方ですね」

 そう言うと、
「……いい方か? あれ?」
と心の底から疑問に思っているように呟いていた。