私、今から詐欺師になります

 いや、出て来てもいないが。
 このまま、仕事も辞めて、また元通りの生活に戻るつもりなのではないかと思ったのだ。

 茅野にはわかったようで、読み上げていた書類を置き、
「いえ。
 それはないです」
と言った。

「一度、外に出てみてわかりました。
 今まで無理してたなって」
と天井を見上げて呟くように言う。

「私、自分の人生はもう諦めてたつもりだったんです。

 でも……やっぱり、本気で悟れていたわけではなかったんですね。

 秀行さんとの結婚が強引に決まったとき、他に特に好きな人が居たわけではなかったし。

 秀行さんもそう悪い人では……

 悪い……

 悪い人なんですけど」
と渋い顔をして茅野は言った。

「でも、秀行さんにも、いいところはあるし、このまま、頑張っていこうと思ってました。

 秀行さんにキスされるたび、私が死んでくような気がしてましたが。

 死んでく……。

 うーん。
 もっと柔らかい言葉で言うなら、違和感を感じるというか」

 秀行に悪いと思ったのか、茅野はそう言い直す。