私、今から詐欺師になります

 




 出先に行く前、茅野と二人、小会議室で、必要な書類の内容に間違いがないか、数字を読み上げ、チェックしていた。

 茅野の声は聞いていて気持ちいい。

 微笑ましく見ていると、視線を上げた茅野が赤くなって、俯く。

「どうかした?」

「いえ。
 玲さん……玲司さんが、こちらを見てらしたので」

「玲でいいよ。
 誰も居ないし」
と言いながら、自分で出した、誰も居ない、という言葉に自分でどきりとしていた。

「……僕はいつも君を見てるよ」

「えっ」

「だって、隣りだし」
と笑うと、茅野は、

「すみません。
 いつもより、玲さんの視線がやさしい気がして」
と言う。

「あれっ?
 いつもはやさしくない?」
と言ってやると、そんなことないですけど、とごにょごにょ言いながら、また書類を読み上げ始めた。

「茅野ちゃん」

 はい? と茅野がまた目を上げる。

「茂野のところに戻る気?」