私、今から詐欺師になります







 あ、渋い顔してる。

 玲は仕事をしながら、社長室から出て来た茅野の様子を横目に窺っていた。

 デスクについて、真面目な顔で溜息をついていた。

 だが、手にしていた紙を広げたあとで、それを眺め、にんまりと笑う。

 ……相変わらず、よくわからない子だ。

 ひょいと上から覗いてみた。

『一度始めたことは最後までやれ』

 穂積の字だな。

 いい言葉だ。

 だが、恐らく、単に茅野に自分の許を離れるなと言っているだけでは、と弟の勘で思う。

 さりげなく立ち上がり、社長室の扉をノックすると、

 掠れた声で、
「入れ」
と言われた。

 なにが違うのかわからないが。

 足音かノックかで、誰が来たのか穂積にはわかるようだった。

 茅野ちゃんの変にリズミカルな足音とか、ノックとか、聞いただけで舞い上がってそうだな。

 あれで可愛いところあるから、と思いながら、
「失礼します」
と入った。

 穂積は広げたパソコンも打たず、書類も見ずに、細長い、未開封の飴を眺めていた。