子どもの頃はずっと思ってた。

 いつか素敵な人に出会って、恋に落ちて、その人と結婚して。

 一生幸せに暮らしました。

 めでたし、めでたし。

 そんな風に生きるんだろうと。

 でも、現実には、悪魔に高い塔に閉じ込められたまま。

 物語はオープニングから進まず、王子様も来ず、ずっと止まっている感じだった。

 だけど、いつしか気づいていた。

 この塔から私が出られないのは、魔法でがんじがらめにされているからではない。

 悪魔がそう悪い人ではないからだ。

 自分が出て行ったら、この悪魔は塔の中でひとり、膝を抱えて、うずくまってるんじゃないかな、と思うと、出て行けないだけなのだと。

 王子様はそこに居て、扉は既に開いているのに。

 私はまだ、此処を出て行けない。

 開いた扉の向こう、やたら明るい外の日差しの中、穂積がこちらを見ている。

 そして、預言者のように言うのだ。

『お前はそこを出ては来られないだろう』