私、今から詐欺師になります

 穂積は、
「充分元気そうだな」
と言ったあとで、

「じゃあ、俺は帰るから」
と言う。

「えっ。
 あ……そうですよね。

 お忙しいところ、すみませんでした」
と頭を下げると、何故か、穂積は黙ってこちらを見ていた。

「穂積さん?」
と呼びかけると、

「……いや」
と言う。

「あとで、着替えとか取りに戻るだろ。
 また来てやるから」

 穂積がそう言い終わらないうちに、
「来なくていいぞっ」
と秀行が叫ぶ。

 ……何故、いちいち合いの手を。

 ちょっとやかましい九官鳥のようだ、と夫を評して思ってしまう。

「穂積さん、ありがとうございました」

「いや、あとで見舞いでも持ってくるよ。
 リンゴとかナイフとかナイフとか」

 何故、そこを繰り返す……。